半分しか愛せない

意味のない戯言に、何か意味があれば良い。ノウルシのVo/Gt. タジリシュウヘイによる雑記

こんな下手なカルテット見たことない

録画していたカルテット最終話をようやく見終えた。

 

良いドラマだった。

視聴率はあまり振るわなかったようだけれど、少なくとも僕の見た感じ、視聴者からの評価はかなり高かったみたいだ。

キャストは豪華だし、脚本のセンスは光ってるし、序盤、どういうドラマなのか分かりにくいという取っつきにくさはあったかもしれないが、きちんと毎回、次週に謎を残す引きを用意していたし、個人的にはかなり評価できる。

 

その中でもポイントが高いのはやはりカルテット、ドーナツホールの四人の演技と、ウィットに富んだ台詞回しだろう。

毎回、随所でニヤリとさせてくれた。

物語の根幹には関わらないレベルの細やかな伏線と回収、台詞によってそれらが引っ張られていて、飽きない。

 

とまあ、そういう感想はきっと多くの人が抱いたのだろうし、書いている人もたくさんいると思うので、僕の個人的な感想を。

 

一人メンバーが欠けただけで、色褪せてしまう。

代わりはいない。

メンバーの不在が、欠けた歯車のように、全体を鈍く軋ませる。

僕自身もバンドを組んでいて、幾度となくメンバーの脱退、新規募集を繰り返しているだけに、この最終話序盤の別府くんを見ていると胸のどこかがヒリヒリと痛んだ。

 

住宅街で演奏する三人に向かって、再会した真紀さんが放つ。

「こんな下手なカルテット、見たことない」

 

それはそうだ。

カルテットとは、四重奏のこと。

三人で演奏していては、そもそも成り立っていない。

 

真紀さん不在の中、ギリギリまで張り詰めた関係性。

それは一年間ケースから取り出さなかったヴァイオリンの弦のように錆びついて、無理に合わせようとすれば切れてしまうものだったろう。

そして遠く離れた町で、一人、扉を叩く音、怒鳴り声、壊れかけた洗濯機の音を聴きながら錆びついていた真紀さん。

四人は完全に不協和音だった。

 

「じゃあ貴女が弾いてみれば?」

とすずめちゃんは言う。

 

貴女の役割は、人生を諦めることでも、怯えて暮らすことでもコロッケデートを週刊誌に抜かれることでもなく、第一ヴァイオリンなのだと。

貴女の居場所は押しつぶされそうな都会のアパートの一室ではなく、私たちのところだと。

 

別荘に戻り、久々に四人で食卓を囲み、自然に漏れ出す「やりますか」という言葉。

名前すら偽った彼女が、ごく自然に自分の居場所として、帰る場所として、そこに心を預けたことを物語るような一幕だった。

 

ここから終盤に向けて繰り広げられる四人の信頼関係に頬が緩んだ。

 

 

そして、個人的にもう一つ、この最終話から受け取ったのは

「自己満足上等」

の精神。

 

誰も見てないかもしれない。

それがどうした。

自分たちは、この四人で、楽しく音楽を鳴らしたいだけだ。

大きなコンサートホールでの演奏を夢見た四人が、自らにつきまとう暗い過去すら利用して、使えるものは何だって使って、その夢を実現させた。

何が悪い。

たとえ観客から空き缶を投げつけられようとも。

自分たちは、自分たちのために音楽を鳴らしているのだから、関係ない。

そして、その自己満足の盛大なマスターベーションで、もしも誰か一人にでも、何かを分け与えることができたなら。

そんなに気持ちの良いことはない。

それだけじゃいけないか?

すべての表現活動のその根幹には、この自己満足があって然るべきだと思う。

高尚な大義名分ももちろん素晴らしい。

しかし根幹には自分のためというエゴがあっていい。

何も悪くない。

 

真紀さんは未だ完全に自由の身ではなく、別府さんは無職。

家森さんとすずめちゃんも、先行きは不透明だ。

真紀さんの身の上の真相だって、本当の意味では明らかになっていない。

 

でも、互いに、一緒にいたいと願った人たちが一緒にいるのに、各々の抱える事情、背景をはっきりさせることが必要か?

白黒つける必要があるのか?

 

「信じてほしいかほしくないかだけ教えて」

と言ったすずめちゃん。

事実が重要ではない。

今どう感じているかが重要だと。

その気持ちに正直になることだけが必要だと。

その正直な気持ちで惹かれ合った四人だ。

きっともう、大丈夫。

 

こんなに曖昧で弱くて強い絆。

僕はそこに一つの理想を見た。

 

口を開けばくだらない小競り合い。

それすらも楽しんではいるけれど。

好きとか嫌いとかではなく。

そこにいないと物足りない。

何だか寂しい。

ただ、そこにいてくれることに、感謝し合って寄り添い合う関係。

美しいと僕は感じた。

 

サンキュー、パセリ。